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みっちやんのタワシ空を飛ぶ
2012.10/21 (Sun)

ある会社で働いていた時に、みっちゃんという子といっしょの職場になりました。

これは、そのみっちやんが編んでくれたアクリル毛糸の「エコタワシ」です。
実は、今年バリの知人に差し上げたところたいそう喜んでいただいて、私はそのことをみっちやんに手紙で知らせました。
バリのお土産もいっしょに送ったんですが、みっちゃんもまたとても驚き喜んで、「またバリに持っていってあげて」と。

こんなにたくさん、箱詰めにして送ってくれたんです

みっちゃんは私よりずっと先輩でしたが、短時間パートタイマーだったので、私が仕事の指示を出すことになりました。
彼女は人とコミニュケーションをとるのが難しい子で、人の好き嫌いがとてもはっきりしているので、気に入らない人には返事もしない・・・という少々扱いにくい人でした。
入社してしばらくは、私もそんなみっちゃんにどう接していいかもわからずにじっと様子を見るしかありませんでした。
パートタイマーが圧倒的に多い会社で、女性ばかりの職場なのでそれなりにいろんな人間模様もありました。
中でも、みっちゃんの個性はみんなにはあまり好意的には受け止められてはいませんでした。
先代の社長はそんなみっちゃんのことを娘のように可愛がり、なにかとかばっていたようですが、私が入社したのはその社長が亡くなってすぐ後のことで、今までは社長がニラミを効かせていたのが、急に亡くなったためにみっちゃんはみんなの標的になっていました。
「どうせ、あの子は何を言っても返事もしないから」
「同じ時給なんてイヤだわ」
そういう声があちこちから聞こえてきました。
それでも、マジメなみっちゃんは休むことなく黙々と作業をこなしているんです。
ある時、ふとしたきっかけでみっちゃんが「ジャニーズ」の「KAT-TUN」が大好きだということを知り、私はあまり詳しくはなかったんですが、大好きなアーティストの話しをしてくれるようになり、だんだん仲良しになることができました。
その後は私のことを「ママ」と呼び、いろんな話しをしてくれるようになり、会社でもいつも私にくっついているようになりました。
みっちゃんは、アルファベットがわかりません。仕事上どうしても「Aの1番とBの3番の部品を使う」というような図面指示があれば、瞬時にそれを用意して作業をしなければなりません。
今までは、せっかく手先が器用なのにその指示がわからないからという理由で、補助的な作業にしか従事してこなかったようです。
「みっちやんも、みんなみたいに一人前に仕事したいけど、無理だから・・・・」
とさびしそうにうつむく姿を見て、なんとかできないかな~と考えました。
それで、上司の許可を得て図面をみっちやん用に改造してみました。
アルファベットの表記の上に色で指示を付け足したんです。
例えばA=茶色 B=赤 C=オレンジ色 D=黄色 という風に。
そしてその部品置き場にも、同じ色の表示をしました。するとみっちゃんは間違えることもなく、みんなと同じように作業ができるようになったばかりか、何度もやっているうちに「茶色はAだよ!Cは黄色だね!」と、覚えるようになりました。
これにはみんなも驚いて、みっちゃんも「一人前」になれたことがとてもうれしそうでした。
みっちやんは相変わらず、気に入らない人とは話しをしませんでしたが、それでも私の後ろに隠れて興味深そうに話しを聞いていることも多くなりました。
話しかけられると、今までは逃げていましたが、にこっと笑顔も見られるようになってきました。
少しの工夫でこんなにも人間関係までもが改善されたことに喜んだのもつかの間、期末棚卸しの時期を迎え、みっちゃんの顔がまた曇りだしました。
「ママ・・・あたし10までしか数えられない・・・どうしよう・・・」
棚卸しでカウントする部品数は多いものでは数千にものぼります。
今まではカウントされたものを片付けるのがみっちゃんの役目だったようです。
でも、せっかくみんなと同じ作業ができることに喜びを覚えているのに、これではまた逆戻りです。
「いいよ、みっちやん!10まで数えて山にして。ママが後で計算するから大丈夫!10ずつ間違えないできちんと山に積める?」
「うん!できる!」
効率のことを考えれば、そういう仕事のさせ方がいいのかどうか意見が分かれるところですが、会社が認めて雇っている人に通常の作業をさせることもまた大切なことではないか。
管理者のミーティングでも意見が分かれ、他の管理者からは私を非難する意見も出されましたが、必ず二人分の仕事量をこなすという条件付きで許され、見事それをクリアできたのです。

その後、リーマンショックの余波で零細企業の会社はあえなく倒産。
私達は解雇となりみんなバラバラになってしまったのです。
私はその後もなんとか経験を生かして再就職しましたが、みっちやんはその後は家に閉じこもるようになってしまいました。
気にはなるものの、どうしてあげることもできず、みっちやんの職務経歴書を作成したり、求人誌でなんとか雇ってもらえそうなところがあれば連絡して面接に行くようにうながしたり。
でも、せっかく雇われたところもすぐに辞めてきてしまうんです。
困ったな・・・あの子はもう就職できないのかな・・・と心を痛めていたある日のこと、大きな箱が送られてきて、中にはぎっしりと毛糸編みのたわしが詰まっていました。
すぐに電話すると「学校でいじめられて、休み時間がイヤで一人で教室に座っていたら、先生が編み物を教えてくれた。それから、趣味にしてる。会社に行かなくなって、ヒマでさみしいからいっいぱい編んだ」
と話してくれました。それにしても一生かかっても使えない量で、どうしたものか・・・と思ってたんです。
ふとした思い付きでバリに持っていったんですが喜んでもらえる人に出会い私もとてもうれしかったんです。
みっちゃんは、今は週に3日ほど5時間のパートタイムで働いています。
そこの社長さんはみっちゃんの個性のことも理解してくれて、仲間からも可愛がられているようです。
人と接することや、新しいことを受け入れるのはとても苦手なみっちゃんですが、「ママ、これからもいっぱい編むからどんどん持っていってあげてねぇ~!」と、明るい声を聞くとほっとします

心が洗われるというか、みっちゃんと話していると自分のつまらない悩みなんかどうでもよくなってしまうんです。

多分、みっちやんはこれからも日本から出ることはないと思いますが、みっちやんの心は、確かに空を飛んでバリに届きました

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